発注者支援業務のやりがい
発注者支援業務に従事するとき、どのような「やりがい」があるのでしょうか。
本記事では、発注者支援業務のメリット・デメリットに加えて、やりがいを感じる瞬間、やりがいを感じやすい人の特長について解説します。
更に、業務に従事するにあたって持っていると望ましい経験や資格についても解説しているため、これから本業務に関わりたいと考えている人にとって有益な内容になっています。
発注者支援業務とは?
発注者支援業務とは、別記事「発注者支援業務とは」にて詳しく記載していますが、国土交通省やNEXCO東・中・西日本、UR都市機構などの公共事業の発注者が本来行うべき業務(工事監理業務・資料作成業務・積算業務)を代わりに行う業務です。
代わりに行う組織としては、本業務を専門としている一般社団法人や民間の建設コンサルタント企業が該当します。
業務内容
発注者支援の業務内容は多岐にわたりますが、その主要な業務を下記に示します。
- 工事監督支援業務
- 積算技術支援
- 技術審査業務
①工事監督支援業務
工事監督支援業務とは、公共事業の発注者である国土交通省(本省や地方整備局)やNEXCO東・中・西日本などが建設物を築造するにあたり高品質である(所定の規格を満足する)ことを担保するために行う品質管理業務や立会い検査など施工業者が計画に沿って適切に工事を行っているか確認を行う支援業務であり、発注者と施工業者の間に入って行う業務調整や技術支援のことです。
本業務では、発注者の代理人として現場施工管理を適切に行なっていることを確認します。
②積算技術支援
積算技術支援とは、設計計算書・設計図面・仕様書から材料や数量を算出して工事費(工事を行う上で必要となる費用)の見積もりを算出する仕事です。
本成果は、工事発注の基礎資料になり工事予定価格の算出の際に用いられます。
公共事業の原資は税金のため国民への説明責任があり、根拠を示す資料にもなるためミスが許されない仕事の一つです。
③技術審査業務
技術審査業務とは、工事の発注者が「総合評価落札方式」で施工業者を決定する総合評価資料の確認や整理を行う業務を指します。
総合評価落札方式とは、従来の価格のみによる自動落札方式と異なり、価格と価格以外の要素(具体的には、初期性能の維持管理性・施工時の安全性・環境社会配慮などの観点)を総合的に評価する落札方式であり、発注者は施工内容や工期、技術要件などをまとめた工事概要を公示し、入札を考えている企業が必要書類を発注者へと提示します。
その情報を元に競争入札が行われて受注者(施工業者)が決定します。
本業務では、工事発注資料の作成、入札企業の参加資格や要件の確認、技術評価支援を行います。
発注者支援業務のメリット・デメリット
発注者支援業務は、言葉の通り裏方(事務作業)の側面が大きいため、業務のメリットとデメリットが存在します。
ここではそれぞれについて複数のポイントを挙げて説明します。
メリット
最も大きなメリットは「大規模プロジェクトに関わりやすい」ことです。
建設業従事者の多くがやりがいを感じやすいポイントであり、業務終了後に達成感を感じやすい特徴があります。
そもそも、大規模プロジェクトの発注者は、政府機関(国土交通省)などが多く、受注者としても大手ゼネコンがとります。
そのため、一般的に大規模プロジェクトに関われる可能性は大きくないため、発注者支援業務として国家プロジェクトと呼ばれる規模の大型建設工事に関われることが大きなメリットです。
デメリット
建設業従事者の最も大きなやりがいである「構造物を建設する」という業務に直接的に関与できないことが大きなデメリットになります。
資料作成や積算、入札対応など事務作業が業務の大半を占め、現場で行う業務は立会検査や確認作業だけのため、現場が竣工を迎えても「この構造物は自分が造った」と感じることは少ない傾向があります。
また、チームで仕事を進めるやりがいも少ない傾向にあります。建設工事は一般的に、チームで構造物を作り上げていきます。
「擁壁」ひとつを例に挙げても、整地業務、鉄筋組立業務、型枠組立業務、コンクリート打設業務と専門業者が複数入れ替わり築造していきます。
発注者支援業務は、上述の業務内容の通り、個人で行う業務が大半のため、「○○さんのおかげでうまくいった」という直接的な関わりが少ないことがデメリットです。
発注者支援業務のやりがい
本題である「発注者支援業務にやりがいを感じるポイント」を下記4点に絞って解説します。
- 社会貢献を感じやすい
- 経験を活かしやすい
- 発注者側の立場である
- プライベート重視の働き方ができる
仕事にやりがいを感じるポイントで重要なことは、人や世の中のためになっていると肯定的に感じることです。
本記事では、中でも自分の知識や経験を活かし、人を喜ばせたり幸せにしたりできるやりがいを特に感じやすいポイントに絞って説明しています。
①社会貢献を感じやすい
業務の特性上、公共事業に関わることができることが最も大きなやりがいです。
公共事業で建設するものは社会資本と呼ばれ国民の生活の質を向上させるものに直接的に影響を与えます。
具体的には、土木工事であれば、道路・橋梁・ダム・トンネル・地下鉄など、建築工事であれば、病院・学校・ビル・住宅など社会貢献を感じやすい構造物の建設に従事できます。
②経験を活かしやすい
仕事にやりがいを感じる重要なポイントの一つに「自分の業務と相性が合っていること」があります。
発注者支援業務は、上述の業務内容の通り、未経験でもできる仕事ではありません。
工事監理業務・積算業務・資料作成業務など、これまで建設業に関わってきた人が担当するのが一般的であり、これまでの経験を直接的に生かしやすい仕事環境であることがやりがいにつながります。
③発注者側の立場である
本業務は、発注者の代理人として発注者側で建設現場を管理できるため、仕事の幅が広く、計画から設計、施工、維持管理まで幅広く経験できることにやりがいを感じることもあります。
施工管理では、担当職種しか関わらないことも多く、専門家を目指す場合は良くても、幅広く現場を見たい人にとっては発注者支援業務が適していることもあります。
④プライベート重視の働き方ができる
勤務時間や休日などは公務員に準拠することからオンオフを切り替えやすく、仕事とプライベート両方を大切にできるのも魅力です。
発注者支援は建設業界のなかでもワークライフバランスを保ちやすいので、仕事に対するモチベーションも維持しやすいでしょう。
やりがいを感じる人の特長
業務の特性から、発注者支援業務を通してやりがいを感じやすい人の特徴を解説します。
- ミスをしない
- 柔軟な対応が可能である
- コミュニケーション力がある
①ミスをしない
本業務の原資は国民の税金のため、業務上のミスは問題になりやすい傾向にあります。
特に発注者へ報告する設計図面や計算書の数値や数量が間違ったことで生じるトラブルは連鎖的に工期にも直結します。
税金を使う以上、国民への説明責任もあるためミスが許されない仕事なのです。
②柔軟な対応が可能である
上司に言われたことだけをやっている人ではなく、柔軟な対応ができる人もやりがいを感じやすいです。
本業務は、基本的に発注者からの指示によって仕事をしますが、建設工事は天候の影響を受けやすく、多くの変更が発生しやすい環境にあります。
そのため、言われた仕事だけに対応していては後手に回り、変更によって生じる臨機応変な対応ができないケースがあります。
そのため業務指示の意図をくみ取り、柔軟な対応をすることでコントロールできている感覚を感じやすく、やりがいに直結します。
③コミュニケーション力がある
本業務は、発注者からの依頼に基づいて、発注者の代理で受注者(建設会社)と協力して業務を行うため、各方面と積極的にコミュニケーションをとることが求められます。
そのため、コミュニケーションを率先してとる性格の人はやりがいを感じやすい特徴があります。
役立つ経験・スキル・資格とは?
上述の通り、本業務は、建設業界での経験を活かしやすい業務です。
そのため、現場で施工管理業務に従事した経験、調査や設計などのコンサルタント業務に従事した経験、他の発注機関(NEXCOなどの民間を含む)での発注経験が直接的に役立ちます。
その他にも、土木・建築における一級・二級施工管理技士や建築積算士、測量士の資格に加えて、CAD操作の経験が活きてきます。
難易度は上がりますが、RCCM(シビルコンサルティングマネージャ:Registered Civil Engineering Consulting Manager)や技術士の資格を保有していると重宝される傾向にあります。
まとめ
発注者支援業務のメリット・デメリットに加えて、やりがいを感じる瞬間、やりがいを感じやすい人の特長を理解できたでしょうか。
本業務は、一般的に建設業経験者が行い、その業務内容は、工事監督支援業務、積算技術支援、技術審査業務など多岐に渡ります。
業務の特性上、大型案件に関わる確率が高い一方で、積算関係のミスなどが許されない側面があります。
本業務を通して、発注者の代理として社会資本整備を行い、やりがいを持って建設業に取り組む人が増えることを願っています。