3者協議の重要性
~地質調査業務における好連携の実例紹介~
本記事では、地質調査業務の実例をもとに3者協議による密に関係者間でコミュニケーションをとることで業務の効率化、遅延の回避を達成した好事例を紹介します。
本業務では、業務効率化のために遠隔臨場による立会検査も実施しており、創意工夫がみられる好事例となっています。
これから建設現場に関わる人にとって学びになる内容が多く含まれているのでぜひ参考にしてください。
案件概要
本記事では、地質調査業務における3者協議を最大限に活用して関係者間で密なコミュニケーションを図ることで手戻りの防止、業務の最適化を実施した好事例を紹介します。
事業概要は下記のとおりです。
発注者:国土交通省 関東地方整備局 久慈川緊急治水対策河川事務所
工事名:久慈川大子工区地質調査業務(茨城県)
受注者:地圏総合コンサルタント
事業の背景と目的
本業務は、2019年(令和元年)10月6日の東日本台風(台風第19号)の影響で堤防が決壊した久慈川の緊急治水対策プロジェクトの一環であり、樋門(水を取り込んだり排水するための堤防を横断する暗渠)や堤防を整備するための調査・設計でした。
地質データを取得するために、当該地区の河川近傍で機械ボーリング、標準換入試験、取得したコアサンプルをもとに室内試験、現場透水試験を実施して設計に反映させることが重要でした。
上述で述べた通り、本業務は東日本台風の震災復興関連業務であり、緊急を要する事業であったため、調査業務と詳細設計業務を同時並行で進める異例のスケジュールで対応することが求められていました。
したがって、発注者(国土交通省 関東地方整備局 久慈川緊急治水対策河川事務所)は、受注者(地圏総合コンサルタント)に詳細設計の滞りない進捗を確保するためにも、迅速な調査の実施を期待していました。
調査業務を進める上で心がけたこと
受注者である地圏総合コンサルタントの主任技術者を務めた地圏総合技術部地盤環境室の小野里直也室長は、被災地での復旧工事であり、基礎調査と詳細設計が並行して進んでいた現状に対し、調査業務において以下に2点を特に心がけたと説明しています。
- 顧客(発注者)を待たせることなく、レスポンス早く要望に応えられるように努める
- 成果品の最終受益者(誰がどのように使うか)を意識する
上記を心がけるにあたり、調査業務者である我々と発注者に加えて、施工者も交えた協議(3者協議)を実施して密にコミュニケーションを図ることで設計思想の共有、手戻りの防止を心掛けました。
実際に発注者より、地質調査で抑えるべきポイントとして地形・地質分類図などを用いて施工者も交えて提案・助言を行い、調査業務のリード、迅速な資料・成果提供の達成に繋げたと評価されています。
3者協議とは
そもそも3者協議とは何でしょうか?
土木工事現場では、設計・施工分離方式が採用されており、詳細設計は、設計者が行い、その成果品をもとに設計図書を発注者が作成し、施工者は、その設計図書に基づいて施工を行うため、設計意図が受注者に十分に伝わりきらないことも少なくありません。
加えて、個々の現場で施工条件が異なる土木工事においては特に、当初の設計図書に明記されている内容と実際の現場条件が一致しない場合や、設計図書で想定していなかった条件が発生することがよく起こります。
上記問題より、土木現場においては、発注者・設計者・施工者の連携を密にとることが重要視されます。
連携不足による対応の遅れ、品質の低下、手戻り作業の発生など生産性の悪化、手戻りで生じた費用負担の問題などを回避するため、発注者・設計者・施工者間で各種情報を共有し、発注者および設計者の設計意図や施工上の留意点を詳細かつ的確に施工者に伝えるために「工事施工調整会議:3者協議」が重要視されているのです。
目を見張る「関係者調整」
本業務では、現場実務において最も重要な能力が関係者間で上手く調整を行う力、いわゆる「関係者調整」が特に好評価を得ました。
建設現場では、多くの利害関係者と関わります。
具体的に本工事では、遠隔地で作業を行うため、発注者との連絡、受注企業内でも本社の技術者と現場実務者の連絡、さらに本業務では住民の私有地で調査業務を行うことが多く、業務をスムーズに進めるためには、周辺住民とも良好な関係を保つことが欠かせませんでした。
そのほかにも資機材の搬出入のための運搬車両があったことから道路管理者や交通管理者、一般の走行車両などの道路利用者、地権者への工事への理解を促すためにさまざまな工夫を行ないました。
本業務での創意工夫
周辺住民の工事に対する理解促進を図るためには、行政や専門家の協力に加えて、地元住民とも定期的に話し合っていくことが重要になります。
話し合いの場では、将来の開発後のイメージの共有とメリットを理解できるように将来イメージのパースやARなどの技術を用いた画像・映像を活用して目視できる状態にする取り組みなどがあります。
本業務では、迅速な調査完了が求められたため、発注者による立会検査を遠隔臨場で行いました。
遠隔臨場とは、動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ等)によって取得した映像及び音声を利用し、遠隔地から Web 会議システム等を介して段階確認や材料確認などの立会検査を行うことであり、国土交通省では実施要領も下記のように纏められています。
(参考:https://www.mlit.go.jp/tec/content/001473624.pdf)
加えて、ボーリング調査の検尺立会などをリモート化し、ウェアラブルカメラを活用してボーリングの延長なども確認しました。
その結果、発注者の立ち合いによる作業調整が不要になり、施工者の業務進捗に合わせることが可能になったことでスムーズな工事進捗を図ることができました。
また、多数の調査箇所が広範囲に点在している現場に本システムを導入することで、担当職員の現場移動に約2時間要する箇所を移動時間ゼロで立会を行うことができ、立会検査による工事遅延を回避できました。
更には、本システムを活用することで、現場に熟練の技術者がいなくても本社にいる上司から作業の不明点に対してアドバイスをリアルタイムで受けることが可能になったため、若手技術者でも対応が可能になり、人手不足対策と作業効率化(サポートツールとしても)にも寄与しました。
工事現場における創意工夫とは
建設現場における創意工夫とは、現場で起こる課題を解決し、業務効率化、生産性向上、安全性の向上を図る取り組みのことを指します。
具体的には、ICT、IoT、AIなどの新技術の活用や現場周辺地域への配慮、あるいは環境問題へ対応するためのアイデア等も含まれます。
公共事業(建設工事)は、最終的に発注者により受注者の工事成績評価が実施されます。
これは、品質管理を目的に施工体制や、施工状況、出来型などの項目で照査(チェック)を行い点数をつけ、受注者の能力を数値化するものです。
上記概要の通り、以下の項目で「工夫している」と評価された場合1点(1項目につき)が加点されます。
- 準備・後片付け関係
- 施工関係
- 品質関係
- 安全衛生関係
- 施工管理関係
- 新技術活用
特に最近では国土交通省から生産性の向上を目的にi-Constructionの推進が政策として掲げられています。
本取り組みでは、ドローンなどによる三次元測量、ICT建機による施工、IoTデバイスによる状態監視など建設工程のすべてのプロセスに機械を取り入れて作業の省力化を図る取り組みです。
国土交通省では、生産性向上の好事例を横展開するために「インフラDX大賞(旧i-Construction大賞)」を開催しており、各社のICT機器の活用事例による建設現場での創意工夫を評価・共有しています。
本業務における工事成績評価点
本調査業務の工事成績評価点を以下に示します。
評定項目の「創意工夫」は4点満点中3.6点であり、上記、遠隔臨場などの取り組みが評価されました。
「説明調整能力」では、周辺の地域住民への配慮や発注者・施工者との情報共有、業務調整など、確実な進捗確保に真摯に向き合って取り組んだ姿勢が評価されました。
項目別の評定点 | ||
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実施能力の評価 | 実施体制と執行計画 | 16.0 / 20.0 |
実施状況の評価 | 執行管理 | 4.0 / 5.0 |
品質管理 | 16.0 / 20.0 | |
業務特性 | 8.0 / 10.0 | |
創意工夫 | 3.6 / 4.0 | |
説明調整能力の評価 | 説明調整能力 | 6.0 / 6.0 |
取り組み姿勢 | 責任感・積極性・倫理観 | 4.0 / 5.0 |
結果の評価 | 成果品の品質 | 24.0 / 30.0 |
評定点 82 / 満点100 |
まとめ
本調査業務における受注者の創意工夫や取り組み事例を学ぶことはできたでしょうか?
本業務は、被災地での復旧工事であり、基礎調査と詳細設計が並行して進んでおり、手戻りが許されない現場において、受注者の意図を取り組み、施工者へ留意事項を正確に伝えるためにも関係者調整に力を入れた好事例だったと思います。
これから工事現場に従事を考えている人や、すでに建設業界でこのような仕事に関わっている人にとって、非常に学びのある内容だったのではないかと思います。
是非、参考にして自身の現場にも生かしてください。