浚渫工事とは?河道掘削との違いを徹底解説!
浚渫工事とはどのような工事でしょうか?類似例として河道掘削との違いを説明しつつ、浚渫工事の概要や留意事項などを徹底解説しています。
昨今、激甚化する災害に対しての取り組みも交えて説明するので発注者・建設コンサルタント・建設会社などのすべての建設業従事者へ役立つ内容となっています。
浚渫工事とは?
まず初めに「浚渫工事」について解説します。
浚渫(しゅんせつ)とは、海や河道において、底に堆積した土砂をすくい取り水深を確保する作業のことです。
浚渫工事によって推進を確保することで、走行する船が海底と接触するリスクを無くして安全・安心な航路を確保できます。
そのため、土砂や岩石を掘り取ることを意味する掘削とは異なり、浚渫では堆積した細粒の土砂や泥土をすくい取ることに違いがあります。
浚渫と河道掘削の違い
それでは、浚渫と河道掘削とは何が違うのでしょうか?
実は、両工事ともに河道の流下断面積を拡幅させて河川の流下能力を増加させることを目的としています。
具体的には、海底や河底に堆積している土砂や堆積泥(へどろ)をすくい取る事を浚渫と言います。
一般的には、時間経過とともに堆積した土砂や堆積泥を取り除いて、元の流下断面に復元する工事を指します。
その一方で、河床や側面を掘削して流下断面を拡幅する工事を河道掘削と言います。
なぜ浚渫工事が必要なのか?
上述で触れた浚渫の目的について以下の3点に分けて説明します。
- 防災の観点
- 生態系の観点
- 航路確保の観点
①防災の観点
日本の地形は、山地から海までの距離が短いため流域面積が小さく河川長が短いです。
そのため、水量の変化が激しく洪水をおこしやすい特徴があります。
そこで、洪水や高潮に伴う河川氾濫による災害を防止するため、川底を浚渫(掘削)して河川の流下能力を高めて、増水した時の川の水位を低下させることを目的にしています。
②生態系の観点
河川の水質改善を目的にしています。
川底に汚泥(へどろ)がたまると、貧酸素状態になるため、水中の生態系に悪影響を及ぼします。
そこで、汚泥を取り除き、水質を改善します。
③航路確保の観点
物資の運搬を航路で行う場合、運航船に応じて必要水深が異なります。
そのため、船が海底と接触するリスクを無くして安全・安心な航路を確保することを目的にしています。
浚渫工事の工法
それでは、次に浚渫工事の工法について解説します。
浚渫工事には、”ポンプ浚渫”と”グラブ浚渫”の2種類に分けられます。
ポンプ浚渫とは、先端にカッターが付いている吸水管を用いて海底の土砂を切り崩しながら吸い上げて海底を掘り下げる大規模工事です。
グラブ浚渫とは、グラブバケットと呼ばれる土砂を挟み取る機械を海底におろして、海底の土砂をすくい取ります。
そのほかにも簡易的で小規模な場合で採用される機動性に優れた”バックホウ浚渫”という工法もあります。
本工法は、船に備え付のバックホウで海底をすくい取る工法であり、小規模な工事で採用されます。
河道掘削で採用されやすい工法
河道掘削は、バックホウ浚渫が一般的に採用されます。
施工方法には、筋掘り・スライス掘削・壺堀等があります。
筋掘りとは、澪筋に近い箇所から順次筋状に掘削することで治水効果の早期発現を期待します。
しかし、掘削した箇所に土砂が再堆積しやすいことに留意する必要があります。
スライス掘削とは、地山の頂部から順次面的に掘削する施工方法で、再堆積した土砂を次回施工時に掘削できる特徴があります。
壷掘りとは、河川水を締切り、水際の地山を残して掘削する工法で施工中における濁水の流出を極力抑制させる特徴があります。
しかし、護岸を設置しない区間では、1:3 より緩やかな勾配(流木等の堆積にも配慮)を基本とし、掘削の法肩は堤防防護ラインに影響させないようにする必要があります。
河道掘削では、下流の流下能力と著しく不均衡となる河道掘削は避け、流下能力の増加に効果が大きい場合、周辺の動植物へ与える影響も大きいため、陸上では表土を元に戻す、水中では河床のレキを残す等の配慮を行うことに留意する必要があります。
浚渫工事における各工法の特徴(メリットとデメリット)
次に、浚渫工事における①ポンプ浚渫工法と②グラブ浚渫工法について、そのメリットとデメリットについて解説します。
①ポンプ浚渫
大型の設備が必要になるため、素早く広範囲の土砂を除去できる特徴があります。
しかし、その分のコスト負担が大きいデメリットがあります。
②グラブ浚渫
グラブバケットは2~5m3が一般的な大きさで、20m3程度が最大です。
ポンプ浚渫と比較すると、小回りが利くため壁岸などの構造物近接部や、橋梁部での小規模範囲での施工に向いています。
また、グラブバケットによる土砂のすく取りのため、ポンプ浚渫では吸い取れない固い地盤にも適用可能なメリットがあります。
浚渫土の再利用に関して
浚渫された土砂は基本的に「廃棄物」扱いされます。
近隣の建設現場などで、コンクリートの骨材や埋戻材などに再利用される川砂とは異なり、浚渫工事ですくい取った浚渫土砂は、土質性状や再利用の用途に応じた要求品質、経済性等を考慮してそのまま利用する、安定処理後に再利用する、脱水処理後に再利用する等と適切な方法を選定することが重要になります。
更に、分級や安定処理を利用する際には、添加する凝集材やセメント及びセメント系固化材等によって溶出水のpHや六価クロム等有害物質の溶出に留意する必要があります。
再利用事例
浚渫土を受け入れる土砂処分場のうち、定期的に浚渫工事を行う1級河川等の近接処分場では、計画受け入れ量上限に近い施設も増えてきています。
そこで、受入れ土量を増やすためにも、浚渫土を改良して築堤などに再利用する計画等が進められています。
改良手法は、石灰等のセメント系固化材で改良することで土質強度を向上させる方法が一般的です。
しかし、浚渫土にはダイオキシン成分が含まれているため、築堤などに再利用するにあたり、強度試験の他にダイオキシン類の含有量試験、溶出量試験等が必要になります。
ダイオキシン類の含有量や溶出量は、「河川、湖沼等における底質ダイオキシン類対策マニュアル(案)」に準拠して適用の可否を判断します。
セメント系固化材による改良試験結果では、添加量200kg/m3以上で第2 種改良土の区分となり、河川堤体には問題なく使用できる試験結果等もあります。
緊急浚渫推進事業(浚渫)とは?
最後に、緊急浚渫推進事業とは何かについて解説します。
なぜこのような事業が認められるのか?予算はどこから出てくるのか?に関して理解することで浚渫工事への理解が深まります。
緊急浚渫推進事業とは、昨今の相次ぐ河川氾濫(水災害)などを踏まえて、地方公共団体が個別に緊急かつ集中的に浚渫事業に取り組み、危険箇所を解消することを目的にしています。
対象事業は、河川維持管理計画などの緊急的に実施する必要がある箇所として位置づけた、河川・ダム・砂防・治山に関わる浚渫事業が中心となっています。
事業年度は令和2~6年を予定しており、当該期間で4,900億円程度の事業費を見込んでいます。
背景
そもそも、なぜこのような事業が必要だったのでしょうか?それには予算を管理している事業主体を理解する必要があります。
主要河川と言われる1級河川は、河川法に基づいて国土交通大臣が指定して国家が維持管理や使用制限などを統括しています。
従って、管理費負担も原則として国土交通省になります。
ただし、1級河川の一部区間については、都道府県が管理し、費用も負担することになっているのです。
2級河川に関しては、都道府県知事が指定することとなっており、準用河川は、市町村長が指定することとなっています。
そのため、国が管理する河川については国土交通省が対応していますが、都道府県が管理する1級河川の指定区間や2級河川、市町村が管理する準用河川・普通河川については、維持管理などの防災対策を地方公共団体の厳しい財政事情から捻出する必要があるのです。
つまり、昨今の気候変動や水災害の激甚化を踏まえて予算を国が補助出来るように新しくできた事業が緊急浚渫推進事業なのです。
昨今の水害事例
昨今の水災害事例で特徴的なものを紹介します。
- 平成30年7月豪雨:西日本を中心に広範囲で記録的な降雨量を記録した。本期間の総雨量が四国地方で1,800mmを超えた。
- 令和元年東日本台風:関東甲信地方、東北地方を中心に広範囲で記録的な降雨量を記録した。総雨量が神奈川県で1,000mmを超えた。
- 令和2年7月豪雨:日本全域において記録的な降雨量を記録した。総雨量が長野県や高知県の多い所で2,000mmを超えた。
- 令和3年8月11日からの大雨:西日本から東日本の広い範囲で大雨となり、総雨量が多いところで1,400mmを超えた。
予算や発注形態
浚渫工事をはじめ、河川改修工事は多額の費用を要するため計画的に予算を組む必要があるため、昨今の激甚化する水災害に対応することが困難です。
そこで、緊急的な河川を対象に浚渫工事の経費に関しては、特例的に地方債の発行が可能となりました。
本特例の財政措置は充当率100%、地方債の元利償還金に対して70%の交付税措置を講じることとなっており、一般財源は30%ですむことになります。
地方公共団体にとっては、かなり手厚い財政措置になっています。
まとめ
浚渫工事とはどのような工事か理解できたでしょうか?河道掘削との違い、浚渫土の再利用方法なども学べたと思います。
特に昨今の激甚化する水害にかかる我が国の取り組みとして浚渫は非常に重要な工事です。
建設業従事者として浚渫の理解が役に立つことを願っています。