建設コンサルタント業界の現状と課題
本記事では、建設コンサルタント業界の現状や課題に加えて、転職先なども含めて業界全体の特徴を解説します。
建設コンサルタントとして、建設業へ従事している人、これから建設コンサルタントを目指したいと考えている人に多くの学びを与える内容となっています。
建設コンサルタントとは?
まず初めに建設コンサルタントに関して説明します。
建設コンサルタントとは、安全で快適に使用できる社会資本の提供を目指して、発注者の技術的パートナーとして、企画立案・計画・調査・設計・施工監理・維持管理など建設業の多くの範囲にわたって幅広く業務に従事します。
具体的に示すと、公共工事の発注者である国土交通省(国家)や地方自治体からの社会インフラにかかる課題について調査・検討・設計を行って解決策を提案するコンサルタント業務です。
建設コンサルタント業界の現状
さて、いよいよ本題である建設コンサルタント業界の現状について解説します。
基礎情報も含めて下記4つの観点から詳細に説明します。
- 業界の市場規模
- 建設コンサルタント業界の特徴と市場縮小の背景
- 海外事業
- コロナを経て
①業界の市場規模
建設コンサルタントは、基本的に公共工事に従事するため、公共事業の経済動向に業績が大きく左右されます。
そして、1990年代後半の景気拡張期にピークに達した公共事業投資が、年々減少傾向にある現在は、建設コンサルタント業界にとっても縮小傾向であることを示す一つのデータとなっています。
市場規模は約5,000億円(※)ほどで他産業と比較して特別に大きい市場とは言えません。
(※)参考:国土交通省 建設関連業等の動態統計調査
(https://www.mlit.go.jp/statistics/details/kgyo_list.html)
②建設コンサルタント業界の特徴と市場縮小の背景
昨今では、震災復興関連以降、オリンピックや大阪・関西万博で一時的に需要が見込めていたため、現在まで堅調に推移しておりますが今後増加の見込みが少ないことを考えると減少していくことが予想されています。
一方で、日本の地理的特徴から、河川氾濫や地震などの天災が起こることで一気に需要が増すと考えられます。
③海外事業
一方で、建設コンサルタントが海外の市場で活躍する姿も目立ってきています。
海外事業で最も多いのは、政府開発援助(ODA)と言われる主に日本の支援による発展途上国の経済発展を目指す案件での活動です。
日本もODAとして年間2兆円規模のODAを実施しており、発展途上国への支援と海外進出により利益を目指すコンサルタントも増えてきています。
資金源としては、そのほかにも非ODA事業として官民連携事業(PPP)、民活案件などがありますが、他国での十分な調査や実績がないため、国際競争で日本が価格競争を勝ち抜く難易度は高く、日本の援助のもと海外進出を目指す企業が多いことが現状です。
④コロナを経て
コロナが建設業に与えた影響も小さくありません。
建設業は基本的に現場でものづくりが基本になります。
建設コンサルタントといえど、事務所内のデスクワークで全ての業務が関係するわけではないため、テレワークはしやすい環境にあったとしても、濃厚接触の確率が高く現場勤務が滞ることで大きく影響を受けました。
コロナによる経済の変化の影響は、建設業にも大きな影響を与えています。
昨今では、ウクライナ情勢の不安などの影響も相まって、特に建設資機材の価格高騰に加え、為替の影響による部材の調達難易度が高いことが問題です。
今後の課題
上記、現在建設コンサルタント業界が抱えている現状を踏まえて、課題について、以下の5つの観点から解説します。
- 労働者年齢の高齢化
- 労働環境の改善
- 人材の定着率向上
- 新技術への投資・利活用の拡大
- 海外展開
①労働者年齢の高齢化
建設業の就業者は、2022年には55歳以上が36%、29歳以下が12%と全産業と比較して著しく高齢化が進んでいます。
建設業の生産体制を将来にわたって維持していくためには、若年者の入職促進と定着による円滑な世代交代が不可欠であると言えます。
業界の高齢化が進むことによる問題は、現在のベテラン層が一斉に退職することで人手不足がさらに深刻化するリスクがあるということです。
慢性的に人手不足な建設業において高齢化が進むことは、経済の停滞を招くことにつながり、日本の全産業においても大きな問題です。
②労働環境の改善
建設業界の高齢化が深刻であることは上述にて解説しました。
そこで、高齢化の要因の一つである新規入職者、若者の参入が大きく期待できないことが大きな課題です。
3K(きつい、汚い、危険)な仕事としてイメージされた建設業において、労働環境を改善し、多くの新規入職者、若者の参入を目指すことが重要です。
そのためにも業界全体で新3K(給与、休暇、希望)の定着を目指して取り組みを実施しています。
③人材の定着率向上
若手の入職者増加に加えて、人材の定着率の向上も大きな課題です。
建設業は技術を身につけるためには、他産業と比較して多くの時間を要します。
加えて、「手に職」の文化であるため、机上で学ぶよりも実践(業務)を通して技術や経験を身につけることが多い経験工学の業界です。
そのため、若手が戦力として会社に貢献できるまでには、他産業よりも多くの時間を要する傾向にあるため、せっかく時間をかけて教えても数年で退職してしまうことで、企業へ与えるインパクトは大きくなってしまいます。
また、建設業では、技術を身につけることで専門性を発揮でき、生涯を現役で活躍できる人材になれます。
従って、技術を身につけた後で建設業を離れてしまうことによる建設産業としてのロスは大きなものになります。
④新技術への投資・利活用の拡大
建設業界は、高齢者の割合が多く、人の手に頼る労働集約型の産業である特徴があります。
そのため、DX(デジタルトランスフォーメーション)への抵抗が大きく、IT化が進んでいません。
新技術として、AIやICT、IoT技術などを活用して人の手をなるべく介さない状態の実現に向けて多くの取り組みを実施しています。
特に国土交通省では、インフラのデジタル化を推進する一つの手段として令和5年度より小規模なものを除く全ての公共工事について、BIM/CIMの活用を促しています。
このように資本集約型の産業を目指して業界全体で邁進中です。
⑤海外展開
建設コンサルタントの海外進出は、前述の通り、一定の割合で進んでいます。
一方で、その多くは日本のODA事業でアジア周辺が多いため、先方政府発注の案件にも参加し、国際的に競争力の強いことを目指すことが重要です。
新規で大型インフラを作る事業は日本国内では少なくなってきており、土木業では特に建築と比較して少なくなっています。
そこで、今後は、中国等をはじめとする価格競争の激化が想定される中で価格競争力の強化や民間企業の資金を用いた官民連携事業(PPP)の展開を拡大していくことが求められています。
建設コンサルタントの転職先
上述で、建設コンサルタント業界が抱える現状と課題を整理できたでしょうか?
ここでは、建設コンサルタントからどのような業界や職種へ転職する人が多いのか、その転職先についても解説します。
建設コンサルタントから、現場勤務に憧れ、ゼネコンなどの施工管理職へ転職する人と発注者として国(国土交通省や地方整備局)、地方自治体の土木課に転職することが多いです。
公務員に転職するケースで他と最も大きな違いは、転職が難しいとされている40代以降の方でも採用可能性が高いことです。
高度経済成長期に建設された多くのインフラが更新時期を一斉に迎えており、耐震工事や震災復興関連として求人が多い傾向にあります。
そのほかにも、不動産、設計士、デベロッパー、ビル管理、建設資機材のメーカーなど建設業界内の転職が多い傾向にあります。
特に、技術士などの資格保有者には、地方の建設コンサルタントや中小ゼネコンから好待遇で求人があります。
工事規模によっては、現場監督に主任技術者や監理技術者を配置する義務があるため、施工管理技士の資格保有者を確保することで受注可能な工事数が増えることからどの企業も積極的に求人を出している傾向にあります。
まとめ
建設コンサルタント業界の現状や課題に加えて、転職先なども含めて業界全体の特徴を解説しました。
建設業界が抱える課題について深掘りしたため、見通しの暗い見解を強く示してしまっていますが、昨今のDX推進に伴い労働環境は大きく変わってきています。
本記事を通して、建設コンサルタントに挑戦したい人が増えることにつながれば幸いです。